日本での葬儀は仏式で行われることが多く、そこでは葬具が使われます。
葬具には色々なものがありますが、その意味が分からないことから飾りのようなものだと思う方も多いのではないでしょうか。
しかし、それぞれには古来から故人を偲ぶにあたっての意味が込められています。
そこで、この記事では葬具の種類やそれぞれの由来や意味、役割をご紹介します。
葬具の意味をしっかり理解することで、形式上だけでなく故人を心から偲べるでしょう。
葬具とは?
名前が示す通り、葬儀で使う道具のことです。
昔はよく行われていた野辺送りで使用された「野道具」、仏教のお寺で使用される「仏具」に由来すると言われています。
野辺送りとは?
葬具の由来となる野道具が使用されていた野辺送りとは、葬儀が終わった後に、埋葬する場所や火葬場まで故人を送っていくことを言います。
遺族や参列者が葬列を組み、故人を送る大切な儀式とされていました。
昭和初期頃までは一般的に行われていましたが、現代では一部風習が残る地域を除いて、ほとんど行われていません。
代わりに霊柩車で棺を火葬場まで送りますが、出棺の際に喪主が位牌をもち、その後に他の遺族代表が遺影を持って霊柩車に同乗するのは、この野辺送りの名残です。
仏具とは?
葬具のもう一つの由来とされている仏具とは、仏さまを供養するための道具のことです。
元々はお坊さんのみが使う宗教道具でしたが、仏壇などが普及し一般家庭などでも使用されるようになっています。
葬具の特徴
葬具には基本的に金属の素材が使われないという特徴があります。
一般的に白木や紙で作られたものが多いです。
野道具由来の葬具
ここからは具体的な葬具の種類をご紹介します。
松明
松明(たいまつ)とは、松や竹やアシなどを細かく切り束ねた先に火をつけたものです。
野辺送りでは先頭の人が持ち、進む道を清める役割を果たしていました。
また故人を浄土に導く、つまり引導を渡す役割もあります。
現代では、い草やアシなどを束ねて松明に見立て、祭壇前の経机に置いたりするのが一般的です。
宗派によって松明を用いた引導の渡し方の作法は異なります。
浄土真宗では即身成仏の考え方があり、引導を渡す必要がないことから松明は使いません。
四本幡
四本幡とは、仏教の経典の内容が書かれた4本の旗です。
野辺送りでは棺と墓の四つ角に立てられていました。
釈迦が入滅する前の最後の説法とされる経典、「涅槃経」に書かれた4つの句「諸行無常・是正滅法・消滅滅巳・寂滅為楽」と書かれています。
これは「諸行は無常なり、是れ生滅の法なり、生滅滅し已りて、寂滅を楽と為す」と読み下します。
意味は、諸々のものは無常で常に変化し続け、生じたものは必ず滅びる。生じては滅びるものに捉われなければ、心静かに楽になる。
となります。
「いろはにほへとちりぬるを~」から始まる有名ないろは歌は、この一説を読んだものと言われています。
現代では四本幡を棺の上や祭壇の上に置くことが一般的です。
四華花
四華花とは、切り込みをいれた白紙を竹串や棒に巻き付けて花のような形にしたものです。
「紙華花」「死華花」と書かれることもあります。
野辺送りでは木の台に差して遺族が持ったり、棺の四つ角に立てたりしたものです。
現代では祭壇や経机の端に一対として並べられます。
基本的には白ですが、金や銀のものもあります。
四華花はお釈迦様が逝去した際に、周りの沙羅双樹の花がその死を深く悲しみ、一斉に白く変化してし舞い上がったというエピソードに由来があります。
仏教において、死は全ての煩悩から解放された状態です。
そこから沙羅双樹が死者の成仏の象徴として考えられるようになりました。
お釈迦様の周りにあったのが4本の沙羅双樹だったことから、4本の四華花が葬具として利用されるようになったと言われています。
以前は四華花を立てないと成仏をしないと言われるほど、非常に重要な役割とされていたそうです。
六道
六道とは6本の蝋燭を立てたものを指します。
野辺送りでは松明に続いて、先頭の案内役としての役割を果たしていました。
現代では祭壇に左右3本ずつ、合計6本の灯明が置かれることが一般的です。
仏具由来の葬具
次に仏具が由来となっている葬具をご紹介します。
位牌
位牌とは故人の戒名や没年月日、俗名や享年が書かれた木の札のことです。
故人の魂を宿したもので、喪主が火葬場やお墓まで運ぶものとされていました。
現代でも出棺の際には喪主が位牌を持って先頭を歩いたり、霊柩車の助手席に乗ることが一般的です。
葬儀の際には、簡易的な白木位牌(仮位牌)を使用し、四十九日の際には漆などで塗られた本位牌に魂を入れ替えます。
本位牌にした後は、白木位牌をお寺でお焚き上げしてもらうのが一般的です。
香炉
香炉とはお香を焚くために使う器のことです。
仏具においては、灯明、花瓶と合わせて三具足、五具足と呼ばれる重要なものとされています。
野辺送りの際には後ろに並ぶ参列者が持つものでした。
現代では葬儀での焼香の際に使われます。
仏教では焼香の香りは仏の食べ物とされています。
焼香をすることで故人や仏に対する供養になるだけでなく、自身の心や身体の邪気を払うことにも繋がるとも言われており、焼香を葬儀において大切な儀式としている宗派が多いです。
提灯
葬具として使われる提灯は、葬儀会場の入り口などに飾られるものです。
葬儀で使われる際には「門前提灯」といいます。
自宅で葬儀を行うことが一般的だった時代には、自宅の門の前に一対で置かれていました。
近所の方へのお知らせの意味も込められていましたが、現代では自宅前に飾ることはほとんどありません。
お盆の時期などにも飾られることが多いのは、故人を迎えたり送ったりするための灯りとしての役割があると考えられているためです。
枕飾り
枕飾りとは葬儀までの間、故人の枕元に置いておく仮の小さな祭壇のことです。
葬儀前に弔問客が手を合わせられる場所、また故人の魂が迷うことがないように導くという役割を持っています。
宗派によって飾るものや飾り方は異なりますが、概ねは木の小さな机の上に、枕団子、線香、香炉、線香、燭台、水、一膳飯、花瓶が用意されます。
浄土真宗では、即身成仏の考え方から、枕飾りに関しても不要とされています。
葬具の用意はどうしたらいい?
現代では遺族が葬具を用意することは稀です。
昔は葬儀社という葬儀の手配をする役割の会社はなく、遺族や近所の方が葬儀の用意をしていたため、葬具も用意をする必要がありました。
しかし現代では、葬儀に関すること一切を手配する葬儀社が遺族に代わって葬具も用意をします。
宗派によって用意するものや飾り方が異なるため、遺族だけで手配をするのは大変です。
葬儀社であれば宗派に合わせた用意ができますので、ご自身の宗派をお伝えください。
まとめ
葬具の種類や意味などをご紹介しました。
まとめると次の通りです。
- 葬具は葬儀で使用する道具の総称で、野道具や仏具に由来がある
- 野道具に由来する葬具には、松明・四本幡・四華花・六道などがある
- 仏具に由来する葬具には、位牌・香炉・提灯・枕飾りなどがある
- 現代では、基本的に葬儀社が宗派に合わせて葬具を用意するため、遺族が用意する必要はない
以上です。
葬具は古くから故人を見送る重要な意味を持つものです。
その意味を知っておくことで、故人を形式だけでなく心から偲べるでしょう。